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山口 祐加

フリーランスフードライター / プランナー

両親共働きで、母親に「ゆかが料理を作らないと晩御飯ないよ」と笑顔でおどされ、
7歳のときに料理に目覚める。出版社とPR会社を経て独立。
現在はWEBメディアを中心に執筆を行う傍ら、社食を開くなど食に関するイベント多数も行う。

初めてこのお店のコンセプトを耳にした時、驚きとともに「面白くならないわけがない」と確信しました。

そのお店は京都市内の中心地、雑居ビルの2階にあります。

手前のドアを開けると、5mほどの廊下にドアが2つ。
手前の201号室は「ビストロ ベルヴィル」と書かれており、奥の202号室には「トルビアック」と書かれています。

ビストロ ベルヴィルはフランスのバスク地方やアルザス地方など異文化が混じり合い、料理も混血化したフランスの郷土料理や移民料理が楽しめる店。トルビアックは、朝はベトナム料理屋、昼夜はタイ料理屋として営業するアジア料理の店です。

 ビストロ ベルヴィルの店内

驚くべきはこの二つ店が厨房を挟んで繋がっており、店主さんが一人で料理し、一人で接客すること。
しかも同時進行で営業することもあると言うからすごい。

同じ店で昼と夜の内容が変わる二毛作スタイルや、バーを間借りして営業する「間借りカレー」などはここ最近よく聞きますが、一つの厨房を挟んで二つの異なる店が営業するのは少なくとも私は聞いたことがありません。

 トルビアックの店内

以前私が京都に住んでいた頃に何度か訪れており、この度店主さんにお話を聞かせていただけることに。彼はこの二つのお店を始める前に同じ京都市内でモロッコ料理屋を営まれていました。
日本では耳慣れないモロッコ料理を始めた理由、そしてフランスとアジアの料理に転身した理由を伺いました。

「もともと学生の頃からキューバやモロッコなどマニアックと言われる国を旅するのが好きでした。モロッコは街並みの雰囲気や彩色のセンスが独特なところから好きになりました。

加えてモロッコにはベルベル人という先住民族がいて、そこにヨーロッパの国々が侵略してきた歴史があります。その「歴史の地層」を見るのがすごく好きなのです。地層によって土地の料理も形成されていきます。モロッコの土着の料理を作りたくて、モロッコ料理屋を始めました。

モロッコ料理屋を初めてから3年ほど経った頃から、同じくよく訪れていたフランスの料理屋をやりたいと思い始めました。フランス料理といってもソースをふんだんに使ったフレンチではなく、郷土料理や移民料理などの個性豊かな料理を作りたかったのです。

 ビストロ ベルヴィルで提供されているバスク地方の郷土料理である「ピペラード」は、トマト、ピーマン、ニンニクやタマネギを炒めて、唐辛子を効かせた料理。ヴァントレッシュ(フランスのバスク地方の豚ばら肉の加工肉)のグリルを乗せて。

例えばバスクの料理は、独立国家であったバスクの文化に加えて、スペインの文化、フランスの文化が混ざり合った料理です。アルザスもドイツとフランスの国境境いで、二つの国の文化が混ざった料理が食べられています。

 トルビアックで提供されている「ムーパッチャー」は豚のスパイシー炒め。生のコショウとクラチャーイ(生姜とゴボウと足して二で割ったような風味をもつ食材)が必ず入っているのが特徴。中華から伝わった炒め料理でありながら、タイらしいスパイスが効いた混血料理。

もう一つのお店のテーマであるベトナムとタイも同様に、文化がクロスオーバーしています。ベトナム料理にはフランスの文化が、タイ料理には中華料理のエッセンスが入っています。

文化が混ざる場所の料理には、その土地らしい個性があり興味深いのです。ただそれらの料理は現地ではポピュラーですが、日本におけるタイ料理屋ではパッタイやタイカレーに比べてマイナーな料理です。だからこそ私は現地でポピュラーな料理を紹介しようと思い作っています。」

文化がクロスオーバーした場所の料理が好きというのは、旅行好きの店主さんらしい。

お店の名前も「ビストロ ベルヴィル」はパリ東部にある移民街の地名から、「トルビアック」はアジアの地名ではなくパリの13区にある大きな中華街のある地域から取っているそう。二つのお店のジャンルは異なれど、彼が作る料理はどちらも力強くユニークな理由がスッと腹に落ちました。

それにしてもどうして同じ空間で二つのお店を作ろうと思ったのでしょうか。

 トルビアックの入り口

フランスが好きなのと同じくらいアジアの料理が好きで、どうにかしてどちらもできないかと考えていました。しかも僕が一人で料理をし接客もやりたいので、二つ別々の店を作るわけには行きません。
加えて、前の店ではあまり実現できなかった『自分の好きな空間』を作るときに、フランスとアジアなら雰囲気も異なるし、それぞれに個性があって良いと思ったのです。そこから二年ほどアイデアを温めて、実現しました。

もともとは一つの空間だった事務所用のワンルームを仕切って廊下と壁を作り、二つの店にしました。学生時代にかじっていた建築や住文化の知識を活かして空間を作りました。

 トルビアックの店内

初めて来てくださったお客さんが向こう側にも店があることに気づき『今度は向こうに行ってみよう』と言ってくれるのは嬉しいです。ベルヴィルで夜ご飯を食べて、トルビアックが空いていればそちらでデザートを食べてもらうこともありますね。」

旅好きだから思い立った時に休めるようにと、ひとりで営む店主さん。旅で吸収したエッセンスを落とし込んだ料理の数々は、お目にかかったことがないものばかりで好奇心と胃袋をくすぐられます。京都を訪れた方は、ぜひこの不思議な空間を味わってくださいね。

それではまた!

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作りたて、焼きたて、揚げたて……できあがったばかりの食べ物は言葉にならない魅力がありますよね。
今日は「できたて」をテーマに、アメリカと日本のひとひねりあるお店について書いてみようと思います。

今年の春アメリカのボストンに滞在していた時、近所に小さなコーヒー屋がありました。その店では、コーヒーのおともになる焼き菓子を置いてないかわりに、あるものをその場で作っています。

店に入った瞬間、鼻の奥まで届く甘く香ばしい香り。その香りに抗えませんと言わんばかりに、お客のほとんどがワッフルを注文しているのです。注文してからワッフルメーカーで焼き始めるそのこだわり。焼きたてのワッフルのおいしさは、言うまでもありませんよね。

アメリカでは朝ごはんにコーヒーとワッフルやドーナツを食べる文化があるので、熱々のワッフルで出社前の気合を入れる人もいるのだと思います。

これがもし数時間前に焼いてショーケースの中に入っていたら、ここまで大勢の人は頼まないと思うのです。自分の注文分がワッフルメーカーに入り、しばらくするといい香りが漂い、焼きたてのワッフルを手渡しされたときに高揚を感じる。その体験があるからこそ、お客がこぞって頼んでいるのでしょう。できたてのおいしさは、どの食べ物にも通じるところがあります。

できたてをストイックに追求し、「自家製」にこだわるお店もあります。私が大好きなNetflixオリジナルの料理番組『アグリーデリシャス』では、ロサンゼルス・タイムズの料理評論家ジョナサン・ゴールドがこう語ります。

「おいしいタコス屋台の見極め方は“トルティーヤを自家製で焼いているかどうか”だ。80%のタコス屋台は市販品を使っている」。

市販品を使えば手間はかからないですが、トルティーヤの味や風味は自家製した方が圧倒的に良いのは想像に容易い話。
しかし、そんなお店が実在するのです。

ニューヨークのチェルシーにある複合施設「チェルシーマーケット」の中に入っている「ロスタコスNo.1」は、無限にある街のタコス屋の中でもかなりの人気店。

私がお店を訪れたときは、遅いお昼時間にも関わらず長蛇の列。
注文をした後に背伸びをして厨房を覗いてみると、女性シェフが慣れた手つきでトルティーヤ生地を型抜きし、ポンポンと鉄板に乗せて焼いていました。

番組『アグリーデリシャス』での言葉と答え合わせをするように「やっぱりおいしい店は自家製なのだな」と感じました。

肝心のタコスはひっくり返るほどおいしく、今まで食べたタコスの中でも群を抜いていました。
包まれた具材の一体感のあるおいしさに加えて、しっかりと歯ごたえがありコーンの香り豊かなトルティーヤがいい仕事をして唯一無二のおいしさになっていました。

日本にも、驚くべき「できたて」のお店があります。

それは北千住と浅草に店を構えるコーヒー屋「マメココロ」。
このお店は、世界各国の生豆から好きなものを選び、焙煎度合いも自分の好みを選び焙煎してくれるお店なのです。

コーヒー豆は焙煎されて売られているのが当たり前と思っていたので、「生豆から焙煎します」と聞いたときは耳を疑いました。

私がブラジルの豆を中~深煎りの間で200g注文すると、店員さんが豆を焙煎機に入れてスイッチを押し、ものの5分前後で焙煎が完成しました。

コーヒーは自宅で毎朝淹れるほど好きですが、少量であればここまで短時間で焙煎できるとは知りませんでした。しかも焙煎機はスケルトンになっていて焙煎プロセスも目でみることができ、豆を焙煎している間にコーヒーのサービスもあり、豆1000円の買い物以上に満足感を得られました。

なにか一つでも「できたてや自家製のもの」があるだけでお店の個性は一気に際立ち、それがお店を訪れる理由になり、通い続ける理由になると思います。

それではまた再来週!

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