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山口 祐加

フリーランスフードライター / プランナー

両親共働きで、母親に「ゆかが料理を作らないと晩御飯ないよ」と笑顔でおどされ、
7歳のときに料理に目覚める。出版社とPR会社を経て独立。
現在はWEBメディアを中心に執筆を行う傍ら、社食を開くなど食に関するイベント多数も行う。

「メニューがひとつしかない上に、営業時間が短い」。

この文言だけだと魅力的なお店にはあまり思えないのではないでしょうか。
しかし、そのメニューが人を惹きつけ、営業時間が短いからこそ逆に行きたくなるという状況を生み出しているお店がここ数年で急増しています。

今回はそんなお店を3店舗ご紹介していきたいと思います。

最初にご紹介したいのは、渋谷駅から歩いて5分の「かつお食堂」。
バーを間借りして朝から営業するお店の名物は、かつお節たっぷりの“ねこまんま”。1日50食限定かつ、最近メディアに取り上げられる機会も多いため昼頃には売り切れてしまいます。

ねこまんまと聞いて「家で食べられる」と思ったら大間違い。こちらで食べられるのは、4年に一度開催されるかつお節のオリンピック・全国鰹節類品評会で金賞を受賞したかつお節。それをかつおへの愛が溢れてしかたない美人店主、通称かつおちゃん(永松真依さん)が目の前で削り、炊きたてのご飯にどっさりのせていただく究極のねこまんまなのです。

抜群に香りが良いかつお節、追加トッピングした卵黄、だし醤油が合わさった時、想像のはるかを行くおいしさに大感動。

食べ終わって店を出ようとすると、「ありがつおございました!今日も花がつおな1日を!」と言って見送られます。店主は冗談で言っているのではなく、本気で言っているのがまた面白いのです。

かつお節には地味なイメージが強いからこそ、スポットライトを当てた時にひときわ輝きます。かつお食堂のことをもっと知りたい方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

お次は京都の老舗・今井食堂。
営業時間はランチタイムだけ、しかも京都駅からバスで約1時間かかるという立地ですが、とある名物を目指して連日人が押し寄せます。

食いしん坊たちの目的は、三日間煮込み続けた「鯖煮」。
鯖と言えば味噌煮をイメージしますが、こちらの味付けは醤油ベースの甘辛味。よく煮込まれた鯖煮は骨も食べられるほど柔らかく、ご飯が進むおいしさです。日本中どこを探しても、ここまで煮込まれた鯖煮が食べられるのはこのお店だけではないでしょうか。

お客の中には鯖煮を食べ終わった後に「鯖煮のお持ち帰り」をする人もいて、どれだけ愛されているかがよくわかります。一度食べたら忘れられないおいしさに虜になり、私も京都に住んでいる頃よく訪れていました。

最後にご紹介するのは、先日渋谷に誕生した1坪の極小店「Lemon Rice TOKYO」。
こちらの1品メニューは「レモンライス」というレモンの風味が爽やかなライスに、オニオンアチャール、香菜、エキゾチックチリソース、カレーソースなどをかけながら食べる新しい食べ物。

新宿ゴールデン街で話題のレモンサワーが有名な「The OPEN BOOK」のオーナーと、ミュージシャンであり大のカレー好きとしても知られる小宮山雄飛さんがタッグを組み開発された新しい渋谷の名物です。

食べ方指南が一緒に付いてくるナプキンに書いてあるのもかわいいところです。(イラストはLemonRiceTOKYOのHPが見やすいですよ)

爽やかなレモンの香りのパンチが効いたレモンライスを一口、その次につけあわせ、カレーソースとおいしさの層を重ねていきます。営業時間はランチタイムのみですが、量も多くなくサクッと食べたいランチにぴったりです。一日100食以上作っているそうですが、連日売り切れの人気様。ワンメニューだからこそ個性が際立ち、逆にメニューを選ばなくて良いことが人気の秘訣なのかもしれません。

他にもメニューがひとつしかない上に営業時間が短いお店の例として、料理研究家・たかはしよしこさんのアトリエ「エジプト塩食堂」が挙げられます。普段アトリエとして使っている場所を食堂として月6日前後営業しており、ファンが多く訪れる店です。その他にも日本橋にある「sisi煮干啖(にぼたん)」は、世にも珍しい煮干しパスタ専門店として熱狂的なファンがいるお店があります。

魅力的なメニューがあれば、営業時間が短くとも人はくることをこれらのお店たちが証明しています。 記事を読まれた方の中で、他にも良い例をご存知の方はぜひぜひ教えてください。

それではまた!

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初めてこのお店のコンセプトを耳にした時、驚きとともに「面白くならないわけがない」と確信しました。

そのお店は京都市内の中心地、雑居ビルの2階にあります。

手前のドアを開けると、5mほどの廊下にドアが2つ。
手前の201号室は「ビストロ ベルヴィル」と書かれており、奥の202号室には「トルビアック」と書かれています。

ビストロ ベルヴィルはフランスのバスク地方やアルザス地方など異文化が混じり合い、料理も混血化したフランスの郷土料理や移民料理が楽しめる店。トルビアックは、朝はベトナム料理屋、昼夜はタイ料理屋として営業するアジア料理の店です。

 ビストロ ベルヴィルの店内

驚くべきはこの二つ店が厨房を挟んで繋がっており、店主さんが一人で料理し、一人で接客すること。
しかも同時進行で営業することもあると言うからすごい。

同じ店で昼と夜の内容が変わる二毛作スタイルや、バーを間借りして営業する「間借りカレー」などはここ最近よく聞きますが、一つの厨房を挟んで二つの異なる店が営業するのは少なくとも私は聞いたことがありません。

 トルビアックの店内

以前私が京都に住んでいた頃に何度か訪れており、この度店主さんにお話を聞かせていただけることに。彼はこの二つのお店を始める前に同じ京都市内でモロッコ料理屋を営まれていました。
日本では耳慣れないモロッコ料理を始めた理由、そしてフランスとアジアの料理に転身した理由を伺いました。

「もともと学生の頃からキューバやモロッコなどマニアックと言われる国を旅するのが好きでした。モロッコは街並みの雰囲気や彩色のセンスが独特なところから好きになりました。

加えてモロッコにはベルベル人という先住民族がいて、そこにヨーロッパの国々が侵略してきた歴史があります。その「歴史の地層」を見るのがすごく好きなのです。地層によって土地の料理も形成されていきます。モロッコの土着の料理を作りたくて、モロッコ料理屋を始めました。

モロッコ料理屋を初めてから3年ほど経った頃から、同じくよく訪れていたフランスの料理屋をやりたいと思い始めました。フランス料理といってもソースをふんだんに使ったフレンチではなく、郷土料理や移民料理などの個性豊かな料理を作りたかったのです。

 ビストロ ベルヴィルで提供されているバスク地方の郷土料理である「ピペラード」は、トマト、ピーマン、ニンニクやタマネギを炒めて、唐辛子を効かせた料理。ヴァントレッシュ(フランスのバスク地方の豚ばら肉の加工肉)のグリルを乗せて。

例えばバスクの料理は、独立国家であったバスクの文化に加えて、スペインの文化、フランスの文化が混ざり合った料理です。アルザスもドイツとフランスの国境境いで、二つの国の文化が混ざった料理が食べられています。

 トルビアックで提供されている「ムーパッチャー」は豚のスパイシー炒め。生のコショウとクラチャーイ(生姜とゴボウと足して二で割ったような風味をもつ食材)が必ず入っているのが特徴。中華から伝わった炒め料理でありながら、タイらしいスパイスが効いた混血料理。

もう一つのお店のテーマであるベトナムとタイも同様に、文化がクロスオーバーしています。ベトナム料理にはフランスの文化が、タイ料理には中華料理のエッセンスが入っています。

文化が混ざる場所の料理には、その土地らしい個性があり興味深いのです。ただそれらの料理は現地ではポピュラーですが、日本におけるタイ料理屋ではパッタイやタイカレーに比べてマイナーな料理です。だからこそ私は現地でポピュラーな料理を紹介しようと思い作っています。」

文化がクロスオーバーした場所の料理が好きというのは、旅行好きの店主さんらしい。

お店の名前も「ビストロ ベルヴィル」はパリ東部にある移民街の地名から、「トルビアック」はアジアの地名ではなくパリの13区にある大きな中華街のある地域から取っているそう。二つのお店のジャンルは異なれど、彼が作る料理はどちらも力強くユニークな理由がスッと腹に落ちました。

それにしてもどうして同じ空間で二つのお店を作ろうと思ったのでしょうか。

 トルビアックの入り口

フランスが好きなのと同じくらいアジアの料理が好きで、どうにかしてどちらもできないかと考えていました。しかも僕が一人で料理をし接客もやりたいので、二つ別々の店を作るわけには行きません。
加えて、前の店ではあまり実現できなかった『自分の好きな空間』を作るときに、フランスとアジアなら雰囲気も異なるし、それぞれに個性があって良いと思ったのです。そこから二年ほどアイデアを温めて、実現しました。

もともとは一つの空間だった事務所用のワンルームを仕切って廊下と壁を作り、二つの店にしました。学生時代にかじっていた建築や住文化の知識を活かして空間を作りました。

 トルビアックの店内

初めて来てくださったお客さんが向こう側にも店があることに気づき『今度は向こうに行ってみよう』と言ってくれるのは嬉しいです。ベルヴィルで夜ご飯を食べて、トルビアックが空いていればそちらでデザートを食べてもらうこともありますね。」

旅好きだから思い立った時に休めるようにと、ひとりで営む店主さん。旅で吸収したエッセンスを落とし込んだ料理の数々は、お目にかかったことがないものばかりで好奇心と胃袋をくすぐられます。京都を訪れた方は、ぜひこの不思議な空間を味わってくださいね。

それではまた!

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作りたて、焼きたて、揚げたて……できあがったばかりの食べ物は言葉にならない魅力がありますよね。
今日は「できたて」をテーマに、アメリカと日本のひとひねりあるお店について書いてみようと思います。

今年の春アメリカのボストンに滞在していた時、近所に小さなコーヒー屋がありました。その店では、コーヒーのおともになる焼き菓子を置いてないかわりに、あるものをその場で作っています。

店に入った瞬間、鼻の奥まで届く甘く香ばしい香り。その香りに抗えませんと言わんばかりに、お客のほとんどがワッフルを注文しているのです。注文してからワッフルメーカーで焼き始めるそのこだわり。焼きたてのワッフルのおいしさは、言うまでもありませんよね。

アメリカでは朝ごはんにコーヒーとワッフルやドーナツを食べる文化があるので、熱々のワッフルで出社前の気合を入れる人もいるのだと思います。

これがもし数時間前に焼いてショーケースの中に入っていたら、ここまで大勢の人は頼まないと思うのです。自分の注文分がワッフルメーカーに入り、しばらくするといい香りが漂い、焼きたてのワッフルを手渡しされたときに高揚を感じる。その体験があるからこそ、お客がこぞって頼んでいるのでしょう。できたてのおいしさは、どの食べ物にも通じるところがあります。

できたてをストイックに追求し、「自家製」にこだわるお店もあります。私が大好きなNetflixオリジナルの料理番組『アグリーデリシャス』では、ロサンゼルス・タイムズの料理評論家ジョナサン・ゴールドがこう語ります。

「おいしいタコス屋台の見極め方は“トルティーヤを自家製で焼いているかどうか”だ。80%のタコス屋台は市販品を使っている」。

市販品を使えば手間はかからないですが、トルティーヤの味や風味は自家製した方が圧倒的に良いのは想像に容易い話。
しかし、そんなお店が実在するのです。

ニューヨークのチェルシーにある複合施設「チェルシーマーケット」の中に入っている「ロスタコスNo.1」は、無限にある街のタコス屋の中でもかなりの人気店。

私がお店を訪れたときは、遅いお昼時間にも関わらず長蛇の列。
注文をした後に背伸びをして厨房を覗いてみると、女性シェフが慣れた手つきでトルティーヤ生地を型抜きし、ポンポンと鉄板に乗せて焼いていました。

番組『アグリーデリシャス』での言葉と答え合わせをするように「やっぱりおいしい店は自家製なのだな」と感じました。

肝心のタコスはひっくり返るほどおいしく、今まで食べたタコスの中でも群を抜いていました。
包まれた具材の一体感のあるおいしさに加えて、しっかりと歯ごたえがありコーンの香り豊かなトルティーヤがいい仕事をして唯一無二のおいしさになっていました。

日本にも、驚くべき「できたて」のお店があります。

それは北千住と浅草に店を構えるコーヒー屋「マメココロ」。
このお店は、世界各国の生豆から好きなものを選び、焙煎度合いも自分の好みを選び焙煎してくれるお店なのです。

コーヒー豆は焙煎されて売られているのが当たり前と思っていたので、「生豆から焙煎します」と聞いたときは耳を疑いました。

私がブラジルの豆を中~深煎りの間で200g注文すると、店員さんが豆を焙煎機に入れてスイッチを押し、ものの5分前後で焙煎が完成しました。

コーヒーは自宅で毎朝淹れるほど好きですが、少量であればここまで短時間で焙煎できるとは知りませんでした。しかも焙煎機はスケルトンになっていて焙煎プロセスも目でみることができ、豆を焙煎している間にコーヒーのサービスもあり、豆1000円の買い物以上に満足感を得られました。

なにか一つでも「できたてや自家製のもの」があるだけでお店の個性は一気に際立ち、それがお店を訪れる理由になり、通い続ける理由になると思います。

それではまた再来週!

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突然ですが、みなさんは新宿駅の東口改札を出て徒歩で15秒、駅構内にあるビアバー&カフェ「BERG(ベルグ)」をご存知でしょうか?

日本最上級の立地でありながら、生ビール324円・コーヒー216円と良心的すぎる価格で提供、絶妙に居心地が良い雰囲気とどんなお客でも受け入れてくれる懐の深さに老若男女が押し寄せるお店です。

今回はこのお店の魅力について深掘りしてみたいと思います。

私が初めてお店に訪れたのはちょうど一年前。
平日の朝の7時ごろに店に着くとすでにお店は人でいっぱいで驚きました。レジに並びながら店内を見渡すと、コーヒーを飲んでいる人やモーニングを食べている人がいる一方、朝からビールを飲む人も。

「朝からビールを飲んでいても浮かない、気まずくないお店ってすごくいいな」と、まだ何も食べていないのに一気にファンになってしまいました。客層も通勤前のサラリーマンを中心に、老若男女が各々の時間を過ごしていて「こんなに雑多なのに、ほっとできるお店が新宿にあったんだ!」と静かな衝撃を受けました。

モーニングのメニューは、天然酵母のパン・ポテトサラダ・ゆでたまご・ハムなどの盛り合わせにコーヒーがついて500円以下のものだけ。しかも12時まで販売していて、朝が遅い人もモーニングが食べられる優しい時間設定。
どれだけ良心的なのだろう……と好感度がより上昇。

注文してあっという間に出来上がったモーニングをいただくと、天然酵母パンの風味豊かなおいしさはもちろん、ハムがとにかくおいしいこと!
それもそのはず、ベルグについての本を読んでいると「ベルグのパンやシャルキュトリ(ソーセージ、ハムなどの食肉加工品)は、店主が惚れ込んだ職人に作ってもらっている」とありました。

高品質な食を低価格で提供し、高い回転率で利益を作る誠実な姿勢にますますファンになっていき、今では多い時には月4回ほど訪問しています。

通い続けるうちに、ベルグにはビールだけでなく日替わりの純米酒、泡盛、自然派ワインなども置いてあることに気づきました。
さらにフードメニューもおつまみ系だけでなく、カレーやサンドイッチ、和風なお弁当やおにぎり、大福まで置いてあるのです。

文字面だけだと「統一感がない」と感じるかもしれませんが、ベルグの懐に入ってしまえばオールOK。お客さんが訪れるタイミングによって、なにを飲み食べるのか、それぞれの「私流ベルグの楽しみ方」があるんです。

モーニングプレートのトーストとポテトサラダを、オープンサンドイッチのようにして食べる人。
昼間の打ち合わせ帰りにコーヒーを飲んで、お弁当を買って帰る人。
仕事帰りの一杯に、ビールとソーセージをつまむ人。
使い手の都合にこれほど合わせられるお店も少ないと思います。

そしてベルグの中では、お客さんも年齢・性別・国籍関係なくお店の空気感に馴染んでいて、不思議な一体感すら感じます。
もっと言えば、似たような人たちがいないからこそ周りの目が気にならず、一人の時間を落ち着いて気持ちよく過ごすことができるのでしょう。

 なぜかウルトラマンのお面が……

ベルグは、スタイリッシュさの対極にあるお店です。
お客さんもメニューも店内も雑然としていて、ごちゃごちゃとしているところが逆に良いのです。

おばあちゃんの家にいるような安心感に包まれながら、せわしない生活の中で10分だけコーヒーでほっと一息つける。
一杯のビールで気持ちが上がる。
そんなお店のあり方をベルグはしなやかに体現しています。

まだ行かれたことがない方は、ぜひ一度訪れてみてください。お店に活かせるヒントが見つかるはずですよ。

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キッチンブラザーズをご利用のみなさま、はじめまして!
フードライターの山口祐加です。

好きなことは「料理」と「食べ歩き」で、暇さえあれば頭のなかはごはんのことばかり。
おいしいものに出会いたい一心で年間200軒の新規開拓を目標に食べ歩いています。

さて、いろいろな店を訪れているうちに「もう一度行きたい!」と心を掴まれる店には、営業時間が短い、店主がマニアックすぎる、毎日試作するなど「ひとひねり」した特徴があることに気づきました。この連載では、その特徴をテーマ別にご紹介していきたいと思います。

ご自身でお店を営まれているまたは、これからお店を始めたいと思われているみなさんにとって、お店をより楽しく、面白くするヒントをお渡しできれば幸いです。どうぞよろしくお願いします!

第一回「相手に合わせる店」

築地市場のなかにある「珈琲の店 愛養」は、築地で働く人たちや、築地を訪れる料理人から愛され続ける店です。近頃はその評判を聞きつけて、いちげんさんや外国人観光客も訪れるのだとか。

店のメニューはコーヒー類とソフトドリンク、トーストなど至ってシンプル。
けれど、この「トースト」が店いちばんの魅力。

愛養の店主・鈴木さんが焼くトーストは、焼き加減をどうするか、四つ切りか八つ切りか、ジャムかバターまたはどちらもか、耳を落とすのか残すのか……。
これらを組み合わせ、お客の好みにそってオーダーメイドで作られているというからすごい。

しかもトーストは焼いてバターなどを塗るだけでなく、二枚組み合わせた「トーストサンドイッチ」、築地で働く人が手のにおいを気にせずに食べられるようつまようじ刺した「ひとくちトースト」など、バラエティは無限大。

しかも鈴木さんは常連の好みを覚えていて、席に座るだけでパーフェクトなトーストが目の前に運ばれてくる。きっとそれはとても気持ちが良い「当たり前」ではないでしょうか。

きっと鈴木さんも最初から「お客の好みに合わせて変幻自在にトーストを焼こう」と店を始めたわけではないと思います。毎日お客と顔を合わせるうちに、わがままを言っても良い関係性が生まれ、好みに合わせてトーストを焼いてくれると築地内でうわさが広まり、「じゃあ俺も」と数々のマイトーストが生み出されていった。

愛養に通う人全員のマイトーストを覚えることは容易くないにも関わらず、「河岸では、それができなくちゃ、つとまらないですよ(dancyu 2018年4月号、p.22より)」と鈴木さんはおっしゃいます。

店主が自分の顔と一緒にマイトーストを覚えていてくれる。おいしい以外に「うれしい」も一緒に味わえる。その大きな愛情に、やっぱり常連になる店には理由があるなと思うのです。

先日、私もようやく愛養に行くことができました(お店が13:30閉店で、なかなかたどり着けなかったのです……)。

店に入ると、年季の入ったカウンターの中にいらっしゃる鈴木さんが朗らかに声をかけてくれました。
アイスミルクコーヒーと、初めての方におすすめですという八つ切りジャム&バターのトーストを注文。店内を眺めているうちにコーヒーとトーストが到着。

キンと冷えたコーヒーと、バターとジャムたっぷりのトーストをひとくち。絶妙な焼き加減に思わず笑みが溢れました。小さいサイズのトーストは、あれよあれよという間に完食。飲むようにトーストを食べた初めての体験。私も焼き加減や切り方などをいろいろ試して、私もお気に入りのマイトーストを見つけてみたい。つまりお店の常連になりたい、と心底思いました。

型の決まったトーストではなく、お客に合わせてアレンジするトーストを発明したことでお客と愛養の距離はぐっと近くなったはずです。

お店側にお客が関われる余白があると、自分の場所を見つけたような気がしてうれしくなるのは私だけではないはず。

きっとそれが店に通う理由になるのです。

最後に悲しいことは言いたくないのですが、愛養は築地市場の移転に伴い今年の10月6日で営業を終え、豊洲では業態を変えて営業するそう。

つまり、愛養のトーストはあと2ヶ月も経たないうちに食べられなくなってしまう。
それまでにぜひ、トーストの名手に会いに行ってみてください!

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