目指すは馬喰町のダイナー。街に寄り添い続けた10年 -前編-

お店紹介20.05.22
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隅田川と神田川に挟まれ古くから問屋街として賑わってきた街、日本橋馬喰町。ここ数年は街の特徴を活かした再開発が進み、古いビルをリノベーションしたお店が増えてきたことで知られています。その背景から東京の東側はニューヨークのソーホーになぞらえて“日本のブルックリン”と呼ばれ、最近ではタコスで有名な北出食堂や、パン屋のBEAVER BREAD、そしてゲストハウスのCITANなど、魅力的なお店が軒を連ねる場所へと変化を遂げました。

そんな街で10年以上明かりを灯し続けてきたのが、フクモリ。
お店のコンセプトは「一人でも立ち寄れるカフェ兼定食屋」。山形の3旅館「亀や」「滝の湯」「葉山舘」による和食のノウハウと山形の食材を使った日替わり定食をメインとし、カフェ使いや仕事終わりに飲みに行けるような幅広いメニューを提供しています。

3年続けば良しとされている飲食業界で、そして再開発で大きく変化してきた街の中で10年以上も多くのお客さんに愛され続けるフクモリについて、今回は前後編に分けてお届したいと思います。
前編は、当時まだ問屋街の色合いを強く残した馬喰町をなぜ開業の地に選んだのか、そこにどういった出会いがあったのかについて、オーナー・小松裕行さんにお話をお聞きしました。

後編はこちら

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いろんな世代の人が集まれる、街のダイナーになりたい。

馬喰町といえばアパレルの問屋街のイメージが強いですが、なぜこの場所を開業の地に選んだのでしょうか?

 

当時勤めていたアディダスから独立してデザイン会社の設立を考えていた時に、一緒に仕事をしていた東京R不動産代表の馬場さんに「東東京はどう?」って紹介してもらったのがこのエリアだったんです。ファッションカラーの強い西東京もいいと思っていたのですが、セントラルイースト東京※以下CETが8年目で、40件近くのアートギャラリーもある東東京もおもしろい状況になっていました。

※セントラルイースト東京(CET):日本橋駅周辺から隅田川までの東東京をデザイン、アート、建築の観点から「再発見=創造」するプロジェクト。

Sample detailオーナー・小松裕行さん
アディダスジャパンでクリエイティブディレクターやブランドディレクターとして10年勤め、2009年に独立。デザイン会社である株式会社ヒロユキコマツを設立し、事務所兼カフェにするために同年フクモリをオープン。アディダスではストリートカルチャーに携わっていたが、自身は西海岸のようなナチュラルでオーガニックなテイストが好きとのこと。

 

そして、CETの中心人物でこのビルのオーナーでもある鳥山さんと東京R不動産の人たちは、かつて問屋街で盛り上がっていたこの界隈を再び盛り上げたいと考えていたタイミングでした。空いているテナントを新しい力を持った若い人たちに貸すことで街を活性化しようと。そういった流れもあり、僕自身も前職の経験を活かしておもしろいことができるんじゃないかと思い、このエリアに来たのが始まりです。

ちょうど東東京が再生するタイミングだったのですね。この物件はスムーズに決まったのでしょうか?

 

最初は隣のビルの中で借りようとしていたのですがタイミング悪く埋まってしまい、次に紹介されたのがこの場所でした。
ここは立地もいいのに僕が借りるまで約7年借り手がいなかったんです。というのも、もともとは倉庫だったらしく螺旋階段で1、2階が繋がっているからセットで借りないといけなくて。そして何より、オーナーの鳥山さんが納得する人に貸したいという想いを持っていたんです。どういう理由なら納得するのか聞いてみると、街に集まってきたクリエイターたちが集う場所がないからそのためのカフェを作れる人にしか貸したくないって。

僕は事務所として借りるつもりだったのでそんなにスペースはいらないと思っていたのですが、2階を事務所、1階がカフェならできるかもと考えて、そこからどのように進めていくか計画を立て始めました。

 

小松さんは飲食店経験がないとのことでしたが、カフェを始めることに迷いはなかったのでしょうか?

 

飲食店というより、一つのブランドを作ると考えたらできると思ったんです。自分の経験を集約させた結果としてできたらおもしろいかなって。
もう一つは、当時カフェブームの始まりで西東京を中心にカフェができ始めていたのですが、この周辺にはちゃんと美味しいところが意外とまだ少なくて。所どころに感度の高いアートギャラリーはありましたが、それ以外では本当に理由がないと誰も来ないような街でした。そういう背景もあって、馬喰町の活性化に役に立つためのコミュニティスペースとして、“街のダイナー”になれたらいいと思いました。

Sample detail店名のフクモリは、「福を盛る」という意味。食は喜びであり、幸福につながるという考えから、美味しいごはん・素敵なヒトたち・魅力的なモノを提供して、笑顔があふれるお店になるように込めたとのこと。

それと、当時たまたま仕事を通して山形の老舗旅館の人たちとお付き合いがあったんですが、山形の食材は本当に美味しくて種類も豊富でした。その旅館に食材を卸している素晴らしい生産者さんたちの存在も大きかった。
そこで、その山形の美味しい食材を使ったカフェをつくったらきっと喜ばれるだろうと思ったんです。郷土料理や複雑な調理といったことではなく、とにかく山形の地場の素材がいいので、それらを活かしたシンプルな定食を提供するカフェのようなイメージです。
日本人は和食が好きだから、慣れ親しんでいる定食だったら世代問わず来れて、オーナーの鳥山さんが望む「新しい人も古くから住んでいる人も交われる場所」になれるかなと考えました。

Sample detailこの街で働く人たちが毎日楽しみにしている、日替わり定食。この日の日替わりメニューは、肉豆腐~温玉付き~。その他にも、ハーブ鶏の塩糀焼き、サクラマスの味噌粕漬け焼きを用意。

Sample detail(左)山形の地酒を飲み比べできる「日本酒飲み比べフェア」。スタッフがセレクトした山形のおいしい日本酒から3種類が選べる。嬉しいおつまみ小鉢付き。
(右)山形から届いた甘みたっぷりの林檎を赤ワインで煮込みホワイトチョコを練り込んだ贅沢シフォンでサンド。甘すぎず、林檎の食感を楽しめる。※自家製シフォンサンドは季節によって変わります。

 

たしかにメニューは山形の食材を活かしたものが目立ちます。一方でWEBやSNSでは、山形の色がそこまで強くないと感じました。

 

広報を目的とした取材の時には必ず言うようにしていますが、それ以外は言わないようにしています。郷土料理のお店って前面に出してしまうと新しいものを望む人たちはシャットダウンしてしまうので、そういう先入観をなくしたくて。

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軸は馬喰町のダイナーで、そこから派生して山形の素材を提供していることや、その成り立ち、イベントなどの枝をたくさん張るようなブランディングです。枝に引っかかった人が最終的にフクモリへたどり着いてもらうようにすると、いろんな層の人が来るじゃないですか。
フクモリをやる目的は馬喰町の活性化になるため、ひいては山形の活性化にもなったらおもしろいなと考えています。

Sample detail店内では、フクモリがセレクトした山形県産のおいしい商品が販売されており、自宅でも気軽に山形の食事を楽しめるような提案をしている。

Sample detail螺旋階段の一角には、東東京の素敵なショップやブランドを紹介している「タナフクモリ」も。もちろん購入も可能で、この界隈ならではの手作り感が溢れる小物が置かれている。

 

あくまでこの地域のためのダイナーなのですね。地元の方にはすぐに受け入れられたのでしょうか?

 

そこも鳥山さんの力が大きかったですね。フクモリがオープンしたのは2009年5月8日なんですが、それも鳥山さんのリクエストだったんです。5月8日は神田祭の前日で、神主さんや巫女さんが行列で街を練り歩く鳳輦(ほうれん)というのがあるんですが、「5月8日に開けてくれたらお店の前に鳳輦を通すよ。街に住む人たちへのアピールになるから」と言って。そういったこともあって、初期の頃は本当に街の人たちがこぞって来てくれました。古い人たちとか、この界隈でクリエイティブの仕事をやっている人とか、ギャラリーをやっている人とか、そういう人たちが入り混じる形で。

すごい影響力(笑)そこまで尽力してくれたのはなぜだと思われますか?

 

最初にこのビルを借りる時に、鳥山さんに結構なプレゼンを作ったんですよ。フクモリのコンセプトを説明して、こういう形でやっていきたいと。そして、実際に山形の旅館の方にも来てもらって紹介もしました。それで「こいつちゃんとやるんだ。適当じゃないんだな」と思ってもらえたんだと思います(笑)
鳥山さんは男気のある人だったし、僕もそっちよりの人間だから熱っぽい感じが伝わって、「俺の目が黒いうちは家賃を上げないから、ずっとここでやってよ」みたいに言ってくれて。オープンしてからは、毎日のようにビールを飲みに通ってくれましたね。

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入ったお店に任せるのではなく、みんなで街を盛り上げていかれたのですね。

 

おかげさまで開業後もそんなに大きな不安はなかったですね。実際に美味しいものを提供できている感覚もあったし、周辺に飲食店があまりないがゆえに人は来てくれるんじゃないかとも思っていました。そこは鳥山さんのコンセプト通りでもあって。
鳥山さんに「フクモリは馬喰町のコミュニティスペース、昔のパリで言うサロンみたいなものですか」と聞いた時、「よくわからないけど、そういうことだよ」と言っていたのですが(笑)、今考えると本当にそうでしたね。

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