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FEATURE

この場所だからつくれた、小さなブルーパブと僕らだけの価値。- 後編 -

東京西部に位置するアウトドアの名所、奥多摩。その中心部にある奥多摩駅徒歩30秒の場所に、都内からも足しげく通うファンが多いブルーパブ「Beer Cafe VERTERE」があります。今回は、その創業者である鈴木さん、辻野さんのお二人に、奥多摩というローカルでのビールづくりについてお話をお聞きしています。前編ではお二人の出会いや創業までのお話を中心にご紹介しました。後編では、奥多摩だからこそできたことや、すべて自分たちでつくったというお店や醸造所のDIY、そしてそこから見えてきたブランドとしての価値・可能性についてお届けしたいと思います。

前編はこちら

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奥多摩ならではの付加価値を磨く

 

昨今のクラフトビール人気の高まりもあり、クラフトビールを楽しめるお店もかなり増えました。そんな中でも“バテレはおいしい”と、その評判をよく耳にします。おいしさの秘密は何だと思われますか?

 

鈴木:辻野が研究熱心なんです。
とにかくアメリカの最先端のビールに関する論文をよく読んでます。今日本で流行っているビールは、アメリカではすでに味付けの方向とかが全部論文化されてるんです。なので、アメリカの最先端の論文をとにかく追って実践して、実際にブルワリーにも行ってそこの人たちとわからないことを意見交換して教えてもらって、うちでそれが合うかわからないですけど、挑戦してみて実験の結果をとって、みたいな繰り返しですね。

 

辻野:とりあえずいろいろ飲もうと思いました。おいしいブルワリーにはおいしい理由が必ずあるのでそれを探す。おいしいところがやってて、おいしくないところがやってないことをやれば、たぶんおいしくなる。もう趣味みたいな感じですけど(笑)

 

鈴木:それが一番いいと思います。

 

辻野:でも、僕も苦手なスタイルとかあるんですよ。結局味は好き嫌いになってきちゃうんで、その分そっちは鈴木が好きなタイプだったりするので助け合いながら。

 

 

 

お二人がつくるビールの味にはどんな特徴がありますか?

 

鈴木:奥多摩の水が関係しているんですが、特徴はスッキリしていることですね。
醸造時に意識していることは、アロマ(口に含む前に鼻で感じる香り)とフレーバー(口の中に入れた時に感じる香りや風味)にギャップがないことです。飲む前のアロマはいいのに、味としてのフレーバーに乗っていないとがっかりします。その逆もそうです。飲む前のアロマ、口に含んだ時の舌全体での味わい、鼻から抜けるフレーバーまで一貫性を持たせることを意識して醸造しています。

 

辻野:ただ、うちにはまだ、これです!っていえる武器があるとは思っていないんです。なので、とりあえずいろんなスタイルをつくってみて、そこからどれかを伸ばしたらおもしろくなるんじゃないかなと思ってやってます。

 

都内のバーで飲めるスタイルはここより限られると思いますが、何か理由があるのでしょうか?

 

鈴木:外販だとどうしても流行っているビールが売れやすいというのもありますが、やっぱりここに来ないと飲めないっていう特別感をある程度残しているというのもありますね。全部都心で飲めて完結しちゃうとお客さんも楽しくないんで。たまには奥多摩に来て、都心では卸していないビールを楽しんでもらうという。

 

辻野:ここへ来たお客さんが、優越感を感じられるみたいな(笑)

 

 

 

お客さんにここにきて飲んでもらう以外にも、例えばグロウラーという形でビールの持ち帰り販売も積極的にされています。そういった奥多摩ならではの付加価値のつけ方はどのように思いついたのでしょうか?

 

鈴木:ビールに対するアメリカのカルチャーを、結構そのまんまこっちでもやりたいっていうのがあったんです。で、そのアメリカのブルワリーがあるような場所と、この奥多摩の生活の雰囲気が似てるのかなぁと思っていて。
うちも多いのですが、例えばアメリカのブルーパブに行くと、犬と子供がめちゃくちゃたくさんいるんですよ(笑)なんか生活の一部みたいな感じで。大人はビール飲んでるんですけど、子供もいてポップコーン食べながらジュース飲んで、犬はその辺で寝っ転がってるみたいな。

 

そういったイメージがあったんですね。
ただやはり、都心との距離も考えると、来てもらうことに注力するというのは少し勇気がいるように感じます。

 

鈴木:これはビジネス的に正解かわからない、あくまで自分たちの哲学的な部分なんですけど、あまり無理やりには飲ませたくはないんです。お客さんが自分で気になって手に取ってくれたらそれは正解だけど、自分たちから熱烈にアピールして買わせるのは違うかなって。なのであまり宣伝はしていません。そんな風に、なんとなくわざと教科書どおりじゃないことをやったりしてます。

もともと資本があるような大きい会社だったら別ですが、僕たちは特にどこからも出資されているわけでもなく、限られた資金の中でやっているので、じゃあどう戦うかってなった時に自然とこういう形になっていきました。

 

カフェの近くに併設したグロウラーショップ。ビール用の水筒で好きなビールをもち帰る、いわゆるビールの量り売りをしている。キャンプ等のアウトドアを楽しむ観光客や、奥多摩のお土産としても喜ばれている。

 

 

奥多摩で変化した価値観

 

この空間はすべてご自身たちでリノベーションしたそうですが、こだわったポイントはありますか?

 

辻野:こだわった部分はないですね(笑)とりあえず、穴を塞いでたらこうなってって感じです(笑)まあでもテラス席はつくろうって思ってました。外で飲める場所は欲しいと思っていたので。

 

鈴木:ほんとにいつまでたっても終わらなくて、もうオープン日を決めて、その日までにできなかったらやらないって感じで最後仕上げたんです。今でも暇な時に直したりするんですけど、普通にこだわってたら一生オープンできなくて、もしかしたら今でもつくっていたかもしれません(笑)

 

DIY前の様子。左は現在テラスとなっている庭。右はカフェとなっている母屋。

 

 

 

大変だったんですね。。自分たちでやってよかったことは何かありますか?

 

鈴木:一般的な工具の大半が使えるようになりました(笑)例えば、醸造施設に関しても自分たちで配管の所までわかったり、なんかこうモノに対して詳しくなりました。これは耐熱温度何度だからあそこのホースに使えるねとか、食品基準満たしてる満たしてないとか。醸造所を拡大した時には相当役に立ちましたね。

 

辻野:醸造所もお店も自分たちでやったんで、メンテナンスの仕方も自分たちがわかってる。それは大きいですね。

 

まさにDIYですね。今では地元のお客さんも多そうですが、この地域に受け入れられるために何か努力されたことはありますか?

 

辻野:ここの草刈りをちゃんとやりました(笑)

 

鈴木:最初は元気に挨拶をするっていうのと、8か月間ひたすらここの工事をしてたんで、周りの人たちがもう中に入ってきて「大丈夫か?」って、「いつになったらできるの?」って心配されました(笑)
でもやっぱり当時若かったっていうのはあると思いますね。おじいちゃんおばあちゃんが多いので、孫ぐらいの感覚で。横のお店も余った焼きそば持ってきてくれたり。

 

その時はまだ20代ですよね?

 

鈴木:まだ25歳とか。今となっては自分の子供たちが地元の子たちとも仲がいいんで、そういうので関係がまたできてきたりもしています。ファミレスがないので、近所でフライドポテトが食べられるところってここだけなんですよ、奥多摩は(笑)

 

地元の町おこし団体「OgouchiBanbanCompany」と協力し奥多摩産ホップの栽培もスタート。

 

 

何もないところから始めて、お二人が得られたものも大きいのではないでしょうか?

 

鈴木:あの歳で動けててよかったなって思いますね。今のタイミングで、また同じ5年間をやれって言われたらできる自信がないです。

 

辻野:ないない(笑)

 

鈴木:あの時はほんとにばかみたいに朝2時まで天井を打ったりしてて、次の日朝からまたジャリとか石とか運んで(笑)そういったことを何も疑わずにやってたので。ブルワリーができるぞって言って(笑)

 

辻野:でもひとつそれが形になったっていうのでちょっとした自信にはなった。なので次やる時に考えることができるようになる。考えられる指針はできたんじゃないですかね。

 

鈴木:たしかに!たとえばこのバテレやりながらなのか、一回やめてなのかわからないですけど、また何かをやろっかってなった時に、たぶんかなり速いスピードで今くらいの状態にはできそう。

 

辻野:すごくいろんな寄り道をしてここにきたんで、もうちょい早いルートが見えるようになるのかなって思います。

 

DIYにかかった期間はなんと8か月。バテレ公式Instagramでも徐々にお店ができていく様子を見れます。

 

DIYで増設した醸造施設。複雑な配管もほぼ自分たちでつくりあげたとのこと。

 

 

都内から移住して日常生活も大きく変わったと思いますが、不便だと感じることはありますか?

 

辻野:電車がよく止まります。鹿と衝突とかで(笑)

 

鈴木:今は全部配達に切り替えましたが、以前は週一回の休みが一週間分の買い出しで追われていました(笑)あと、一番大変なのは都心で飲む時。帰る時間をめちゃくちゃ気にしますね。お店を夜9時に出ても家に着くのが午前1時だったりします(笑)

 

 

 

なるほど、たしかにそれはつらそうです(笑)
逆に、奥多摩のいいところはどんなところだと思われますか?

 

辻野:やっぱり場所はすごくいいと思います。ごみごみしていないし、空気もおいしいので。夏でも夕方は涼しいですね。

 

鈴木:めちゃくちゃ気持ちいいですね、熱帯夜もないし。それに、川の音とか鳥の鳴き声とか、都心のお客さんからは「これ何のBGMですか?」って聞かれて、ネイチャーサウンドですって言ってます(笑)

 

辻野:優雅ですよね、朝とかこの庭でコーヒー飲んでると。朝来ると鈴木がだいたい庭で草とかに水あげてるんですよ(笑)

 

鈴木:梅雨は仕事が減っていいですね(笑)で、だいたいみんなここでコーヒー飲みながら、昨日の夜なんのビール飲んでどうだったかって話してますね。

ちなみにここはすごい広々としているんですけど、やっぱり都内より家賃がだいぶ安いんです。そういう固定費を抑えらえていることで、経営面でも気持ちが結構豊かになっていると思います。都心と同じくらい売り上げてるだけで、次に何やろうかなって新しいことを考えられます。

 

辻野:それは製造面でもかなり大きいですね。その分原料に原価を突っ込めるので、ふんだんに材料を使えたり。あと、やっぱり水がおいしいってのもありますね。

 

 

 

 

先ほど理想像が始めた頃と違うというお話もありましたが、奥多摩というこの場所でお店をやりながら変わってきた部分もあるのでしょうか?

 

辻野:なんかこう、ここに来た当時と比べてかっこいいと思うものがたぶん変わってきたのかなって思います。前はもっと派手なものがかっこいいっていうか。

 

鈴木:前は派手でドカーンっていうのがかっこよかったんですが、なんかそれが違うなと思い始めて。それで、2017年1月に二人でアメリカとカナダのマイクロブルワリーを50箇所回って300種類くらい飲んだ時に、醸造所のいろいろなスタイル、スタンス、思考、哲学があると感じたんです。

その後もいろいろと迷走しながら、今年の2月に先に出たアルケミストやヒルファームステッドに行って両社の代表と話す中で、醸造所の考え方や味に対するこだわり等、多くの話を聞かせてもらったんです。それがとても本質的で的確だと感じたんです。それから本質的であるべきという考えになりました。

 

 

 

かっこいいブランドでありたい

 

生産量はこれからさらに拡大されていくと思いますが、今後どれぐらいまで増やしたいとお考えでしょう?

 

鈴木:そうですね、まだまだチャレンジしていないことがあるので、新しい設備とスペースはすごい考えています。そういったやりたいことができるぐらいという意味では今の4~5倍ぐらいですね。

 

具体的な候補地はあるのでしょうか?

 

鈴木:それがないんですよ、この辺りは坂しかないので(笑)
平らな土地ってすごい貴重で、駐車場とかも全然ない。生産量が増えれば外販もできるしここでの提供も増やせます。

 

辻野:それこそアルケミストやヒルファームステッドじゃないですけど、リテールができればお土産屋でも売りたいですね。ここに買いに来てもらえるくらいがいいよね。

 

鈴木:それが一番かっこいい形だなと思いますね。

 

直近だと、具体的にはどんなことにチャレンジしていきたいでしょうか?

 

辻野:サワーエールですね。
あと、個性はもっと出していきたいなと思いますね。結局今もまだずっと探してます。バテレらしさってなんだろうって。

 

鈴木:SNSでよく見るんですけど、お客さんは「あ、これはやっぱりバテレの味がする」って言うんですよ。新しいビールをリリースして、それをお客さんが都内で飲んで。バテレの味ってなんだろうね(笑)

 

辻野:わかる気がする。でも一番は、今までにない新しいスタイルもつくってみたいですね。

 

 

 

奥多摩でスタートして、改めて今どんな可能性を感じていますか?

 

鈴木:飲食店の経営は初めてだったのですが、お客さんの数が毎年予想を超えてくるんですよ。やっぱり長くやることでファンが定着してくるっていうことを実際に感じています。特に個人で営む飲食店ってこういうビジネスなんだなって。常連さんが一定の確率でどんどん増えていって、同時に新規の人たちも増えてきて、ベースが上がりながら徐々に毎年増えていくみたいな。

そうやってようやく今の形ができたので、最初に来てくれてたお客さんにはすいませんて気分ですね(笑)3年たってビールも自分たちの中で納得行く形になってきてるし、料理もよくなってるので。

 

着実にファンが増えている。

 

鈴木:そうですね、SNSとかもフォロワーが増えてきています。例えば、毎年チケット制の飲み放題を2月にやっているんですが、今年はそのチケットが売り切れるのも早かったですね。みんな見てくれてるんだなと。毎年飲み放題に来る人たちを見ると、だいたいが見たことある人なんです。その年によく来てくれたお客さんたちの集大成みたいな感じですね(笑)

 

 

 

都心からの距離も愛着の一つになっていそうですね。
最後に、これからバテレをどんなブランドにしていきたいでしょうか?

 

辻野:バテレで飲んでることが一種のステータスになるところまでは持っていきたいと考えています。知ってることがかっこいいというか。

 

鈴木:その上で、自分たちがその時にやりたいと思うことをずっとやってられるのが一番で、結果的にローカルで圧倒的に強くなるみたいなのが理想です。

 

辻野:楽しいと思えることをしたい。やっててそれがつまんなくなってきたらしんどいもんね。 かっこよくいたいよね。常に自分がかっこいいと思うもの、本質的なものを追い求めてたいです。